うちのベル、来客が来ると尻尾がちぎれそうな勢いで飛んでいく。番犬としてはほぼ機能してない。玄関のチャイムより先に尻尾の音の方がデカい。雷が鳴った日には俺の後ろに隠れる始末で、正直「警護犬」って肩書きが恥ずかしくなる時がある。
ドーベルマンって「番犬・警護犬の代表格」みたいな扱いをされることが多い犬種だ。だけどうちの実物はこれである。で、最近ドーベルマンの成り立ちを調べてて知ったんだけど、どうも俺が知ってる今のドーベルマンの性格って、初代からするとだいぶ丸くなった後の姿らしい。今回はその話。

当時の集金人とドーベルマンの雰囲気を伝えるイメージ画(AI生成)
そもそも、なぜこんな犬が必要だったのか
作ったのはカール・フリードリヒ・ルイス・ドーベルマンという税金の集金人。現金を持って一人で家々を回る仕事柄、自分の身を自分で守れる犬が欲しくて、複数の犬種を掛け合わせて作った——ここまでは前の記事でも書いた話。
今回調べてて新しく知ったのは、これがカール一人の趣味じゃなかったってこと。同じアポルダの街で夜警をしていたヘル・レベルという人物と、牛の買い付けでスイスまで往復していた精肉業者のヘル・シュテグマンという人物も、この犬づくりに協力していたらしい(参考: AKC)。夜道を歩く仕事の人間が2人も関わってるあたり、当時のアポルダの治安、俺が想像してたよりだいぶ悪かったんだろうなと思う。

ドーベルマン発祥の地アポルダにある記念碑。1999年、「ドーベルマンクラブ設立100周年」を記念して建てられた(写真: NatiSythen、CC BY-SA 3.0)
初代の雌犬「シュヌッペ」、性格の売りは”鋭さ”だった
この犬づくりの中心にいたとされる初代の雌犬に「シュヌッペ」という名前が残っている。毛色はねずみ色っぽい単色で、体格は小型のテリアくらい。当時知られていた純血種のどれにも似ていない、正体不明の犬だったそうだ。
肝心の性格については「鋭さで評判だった」という記録が残っている。今の感覚だと「気性が荒い」ってマイナス評価になりがちだけど、当時は真逆だ。現金を持ち歩く集金人の護衛として求められてたのは、人懐っこさじゃなく警戒心と攻撃性だった。だからブリーダーたちも、温厚な個体より鋭い個体を選んで交配を重ねていった。うちのベルが玄関先で尻尾を振り回してる姿を、当時のブリーダーが見たら「不良品」って言われてたと思う。

初期のドーベルマンが持っていたとされる”鋭さ”を伝えるイメージ画(AI生成)
死後、”丸くする”方向に舵を切った男がいた
カールは1894年に亡くなった。ここでドーベルマンという犬種は終わってもおかしくなかったんだけど、後を引き継いだのがオットー・ゲラーという人物だった。本業はリキュール製造業者で、犬づくりは半分道楽みたいなものだったらしい。1899年に最初のドーベルマンクラブを立ち上げ、自身の「フォン・テューリンゲン犬舎」では最盛期80頭のドーベルマンを抱えて、海外にも輸出していたという。
このゲラーがやったのは、単に頭数を増やすことだけじゃない。海外の資料を見ると、ゲラーは犬の見た目の完成度を上げると同時に、「攻撃性を和らげる」方向に意識的に舵を切ったと書かれている(参考: iHeartDogs)。集金人の護衛用に、鋭さだけを求めて選別されてきた犬を、今度は「扱いやすく、安定した気質」の犬に作り替えようとしたわけだ。ここで一気に方向転換が起きたのが、今のドーベルマンにつながる分かれ道だったんだと思う。
見た目もこのタイミングで洗練された
性格だけじゃなく、見た目も大きく変わったのがこの時期だ。20世紀に入ってから、英国のマンチェスター・テリアや英国産グレーハウンドと交配して、あの流線型のシルエットに近づけていったらしい。ジャーマン・シェパードから知性と頑丈さ、ジャーマン・ピンシャーから素早い反射神経、ワイマラナーから嗅覚の良さをもらってる、という説もある(参考: AKC)。
つまり今うちにいるベルの体つきも性格も、カール一人が一発で完成させたものじゃなく、彼の死後に何人ものブリーダーが何十年もかけて「丸めて」「磨いて」いった結果ということになる。

改良を重ねた後の現代のドーベルマン(写真: Andreas Kollegger、CC BY 2.0)
集金人の護衛犬が、雷でビビる犬になるまで
集金人を守るために、鋭さと攻撃性だけを求めて作られた犬。それが100年以上かけて品種改良された結果、雷が鳴ると飼い主の後ろに隠れる犬になった。ゲラーさん、ここまで丸くする予定だったんですかね、と聞いてみたい気もする。
ただ、これは別に「初代は野蛮で今は軟弱になった」って話じゃないと思ってる。集金人の護衛という一つの仕事にだけ最適化された犬を、家庭でも一緒に暮らせる犬に作り替えた、っていう意味では立派な進化だ。うちのベルが来客に吠えもせず尻尾を振ってるのも、この長い改良の歴史の延長線上にあるんだと思うと、いつもの尻尾ブンブンもちょっと違って見えてくる。まあ、番犬としては相変わらず期待できないけど。
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